Kowa 興和株式会社

検査値計算ナビ

2025/10/01

sdLDL-C測定の意義

海老名総合病院 糖尿病センター
センター長 平野 勉 先生

sdLDL-C測定の意義

海老名総合病院 糖尿病センター
センター長 平野 勉 先生

Sampson式によるsdLDL-C計算機

HDL-C(mg/dL)

TC(mg/dL)

TG(mg/dL)

計算結果(mg/dL)
【重要】計算式使用におけるお願い

ご利用の際は各自の責任でお願い致します。

動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の原因物質であり、リスクファクターでもあるLDLは比重1.019-1.063 g/mLの幅広いリポタンパクの集合である。小型で比重の重いsmall dense (sd)LDL(比重1.044−1.063 g/mL)は大型で比重の軽いlarge buoyant (lb)LDLより動脈硬化惹起性がより高いことが明らかにされている。すなわち、大型と比較して小型のLDL粒子の方が血中滞在時間が長いため血管壁に接触する機会が多い、より血管壁に侵入しやすい、抗酸化ビタミンに乏しく酸化変性を受けやすい。さらに疫学研究においてsdLDLを主に持つ人はlbLDLを主に持つ人より冠動脈疾患の発症が3倍多いことが報告されている。sdLDLの組成上の特徴はLDL粒子中に含まれるコレステロール(C)が少ないことである。したがってsdLDLが増加してもLDL-Cの上昇は軽微にとどまる。sdLDLの生成にはトリグリセリド(TG)の増加やインスリン抵抗性が深く関わっているためメタボリック症候群や2型糖尿病ではsdLDL-Cは著明に増加するがLDL-Cの上昇はわずかである1)

sdLDL-Cの直接測定法

我々は微量の血清からsdLDL中のコレステロール(sdLDL-C)を直接定量する方法を開発した2)
血清リポタンパクのTGリッチリポタンパクとHDLをLDL-C直接法で用いた表面活性剤で消去し、lbLDLを酵素で失活させてsdLDLを別の表面活性剤で酵素から保護することでsdLDL-Cのみがコレステロール測定系に誘導される仕組みとなっている。このsdLDL-C直接法はフラミンガム研究や久山町研究などの著明な疫学研究に使用され、sdLDL-CがASCVDの最も鋭敏なリスクファクターであることが報告されている3)

sdLDL-Cと脂質異常症

sdLDL-CはLDL-Cの一部であるためLDL-Cとは有意な相関関係にある。しかし相関係数はr=0.7程度であり、LDL-CのみでsdLDL-Cの高低は判断できない。TGはLDLの直径を負に調節し、TGが高いとLDLは小型化するため、TGとsdLDL-Cはr=0.6程度で相関する。このようにsdLDL-CはLDL-CとTGの双方と相関するため、LDL-CとTGが同時に高値を示すIIb型(混合型)高脂血症で著明に高値を示す4)。LDL-CやTG以上にsdLDL-Cと強く相関するのはNon-HDL-CとアポBである。両パラメーターともTGとLDL-C双方の影響を受けることがsdLDL-Cの特性と一致する。

sdLDL-Cの正常値、異常値

久山町研究において冠動脈疾患に対するsdLDL-Cのカットオフ値は35 mg/dLと定められた。正常値は最低4分位の25 mg/dL以下と考えられる5)。国内外のコホート研究からは50 mg/dl以上で冠動脈疾患のリスクが極めて高いと判断される。今後ASCVDの一次予防、二次予防別に管理目標値が設定されることが期待される。

sdLDL-Cの推定計算式 (Sampson式)

現時点で我々が開発したsdLDL-C直接定量法は保険収載となっていない。しかしsdLDL-CがLDL-Cを超えた鋭敏なリスクファクターであることが明らかとなった現在、sdLDL-C測定の必要性が日に日に高まっている。SampsonらはsdLDL-CがLDL-CとTGと相関することから、sdLDL-C直接法をリファレンスとしてTGとLDL-CからsdLDL-Cを推定する計算式を発表した(式1)6)。この推定式では先にlbLDL-Cを計算し、sdLDL-CはLDL-CからlbLDL-Cを差し引いて求める方式となっている。注意点はこの計算式は空腹時のTGを用いているので非空腹(随時)TGは使用できない。またLDL-CはTGの影響が少ないSampsonらが考案したLDL-C式を用いることを推奨している(式2)7)

式1 SampsonらによるsdLDL-Cの計算式

lbLDL-C = 1.43 × LDL-C − (0.14 × (ln(TG) × LDL-C)) − 8.99
sdLDL-C = LDL-C − lbLDL-C

式2 SampsonらによるLDL-Cの計算式

$$\text{LDL-C} = \frac{\text{TC}}{0.948} – \frac{\text{HDL-C}}{0.971} – \left( \frac{\text{TG}}{8.56} + \frac{\text{TG} \times \text{Non-HDL-C}}{2140} – \frac{\text{TG}^2}{16100} \right) – 9.44$$

sdLDL-C計算式の限界

TGとLDL-CだけでsdLDL-Cが計算できるSampson式は魅力的ではあるが限界もある。直接法は食事の影響を受けないが8)、Sampson式は空腹時TG測定が前提である。直接法と比べsdLDL-C値が低いレンジでより低くなる。健常者においてSampson式と直接法との相関は高いが、糖尿病においては相関が低下する9)。sdLDL生成にはインスリン抵抗性が深く関係するが、インスリン抵抗性とTG値が常にパラレルな関係にあるとは限らない。つまりsdLDL-Cは単純にTGとLDL-Cで規定されるとは限らないことを念頭にこの計算式を使用すべきである。

参考文献

  • Hirano T. Pathophysiology of Diabetic Dyslipidemia. J Atheroscler Thromb, 2018; 25: 771-782
  • Ito Y, Fujimura M, Ohta M, et al. Development of a homogeneous assay for measurement of small dense LDL cholesterol. Clin Chem, 2011; 57: 57-65
  • Ikezaki H, Lim E, Cupples LA, et al. Small Dense Low-Density Lipoprotein Cholesterol Is the Most Atherogenic Lipoprotein Parameter in the Prospective Framingham Offspring Study. J Am Heart Assoc. 2021;10:e019140.
  • Hirano T, Ito Y, Koba S, et al. Clinical significance of small dense low-density lipoprotein cholesterol levels determined by the simple precipitation method. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004;24:558-563
  • Higashioka M, Sakata S, Honda T, et al. Small dense low-density lipoprotein cholesterol and the risk of coronary heart disease in a Japanese community. J Atheroscler Thromb,2020;27:669-682
  • Sampson M, Wolska A, Warnick R, et al. A New Equation Based on the Standard Lipid Panel for Calculating Small Dense Low-Density Lipoprotein-Cholesterol and Its Use as a Risk-Enhancer Test. Clin Chem. 2021;67:987-997
  • Sampson M, Ling C, Sun Q, et al. A New Equation for Calculation of Low-Density Lipoprotein Cholesterol in Patients With Normolipidemia and/or Hypertriglyceridemia. JAMA Cardiol, 2020;5: 540-548
  • Hirano T, Ito Y. Accuracy of Small Dense Low-density Lipoprotein-cholesterol Concentration Estimated via Sampson’s Equation in Healthy Subjects and Patients with Diabetes. J Atheroscler Thromb. 2023;30:979-989.
  • Hayashi T, Ai M, Goto S, et al. Circadian Rhythm of Subspecies of Low-Density Lipoprotein-Cholesterol and High-Density Lipoprotein-Cholesterol in Healthy Subjects and Patients with Type 2 Diabetes. J Atheroscler Thromb. 2023;30:3-14.